どうしてほしいの、この僕に
 これが一般的に至極まっとうな意見だろうと自信満々な私はきっぱりと告げた。しかし沙知絵さんは首を横にふる。
「未莉さんの言葉なら、きちんと受け止めてくれます」
「そんなこと……」
「だってあなたは優輝の初恋の人ですから」
 えっ!? 今、なんと言いましたか?
 は、は、は……はつ……
「初恋!? いや、守岡優輝の初恋のお相手は沙知絵さんでしょう?」
「優輝とは幼馴染ですが、私ずいぶん昔にきっぱりふられています」
 沙知絵さんは困ったような顔をしたまま笑った。
 ——うそ、なんで?
 こんな親切でかわいい人をふるなんて信じられない。
「あ……えっと、その、すみません」
 我に返った私は小声であやまった。知らなかったとはいえ、過去の傷を抉るような真似をしてしまったのだ。
 でも沙知絵さんは小さく首を振った。
「いいんです。こうして近くで見ると未莉さんはスタイルもよくて本当にきれいですものね。私もそんなふうに生まれたかった、なんて思ってしまいます」
 曖昧な表情で私も小さく首を振る。
 お世辞の中には微量のとげが含まれるものだ。その存在には気がつかないふりをして、わざとらしく時計を見た。
「突然押しかけたのに、親切にしていただきありがとうございました。そろそろ飛行機の時間なので……」
 会話を切り上げようとする私を、沙知絵さんが鋭く制した。
「絶対、優輝に伝えてくださいね!」
 え、絶対!? そんな約束はできかねますよ。
 ムッとしたのが顔に出たのか、沙知絵さんが目を見開く。それでも彼女は自分の主張を引っ込めようとはしなかった。
 仕方ないのでこちらが折れることにする。
「もし……守岡さんにお会いする機会があれば、それとなく伝えてみますね」
 なんて言ってしまったけど……。
 沙知絵さんと別れて駅に急ぐ私は、激しく後悔していた。
 だってどう考えても無理だもの。無理、無理、絶対無理。そもそも優輝に実家の話題を切り出せるはずがない。思い切って話してみたとしても、心のシャッターを一気に下ろされ、おろおろする私の姿が目に浮かぶ。
 確かに謎は解けたし、私は優輝の弱みを握った——いや、秘密を知った——が、同時にこんなとんでもない手土産が押しつけられるとは!
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