どうしてほしいの、この僕に
 どうして、と口を開きかけたところで、急に外が騒がしくなった。
「どなたかご到着のようだ」
 友広くんは口元にうっすらと笑みを浮かべて玄関へ向かった。
 ほどなく姉が大きな足音を立てて大広間へ駆け込んできた。
「未莉! 無事なの? けがはない?」
 私の隣にドンと腰をおろすと、私にしがみつくように腕をまわした。
「だ、大丈夫」
 そのとき背後で鈍い衝突音がした。
 私は姉を押しのけて、玄関へ急ぐ。目に飛び込んできたのは、これまで見たこともない形相で優輝が友広くんを壁に押し付けている光景だった。
「お前、自分がやったことがどういうことか、わかっているんだろうな」
「未莉さんは無事ですよ」
「当然だろ。そうじゃなかったら今すぐお前を社会的に抹殺してやる」
 優輝は友広くんの両肩を壁に縫い留め、低い声ですごんだ。その狂気と紙一重の激しい怒りに触れた友広くんはさすがに蒼ざめている。
「優輝、もうやめて」
 思わず発した私の声で、優輝はしぶしぶ友広くんを解放した。
 それから私の前に来て、頭のてっぺんからつま先までつぶさに点検し、最後に私の顔をじっと見つめる。心配そうな目をした優輝を見ていると、これまでの不安や心細さはどこかに吹っ飛び、彼を愛しく思う気持ちだけが胸にあふれた。
「よかった」
 優輝が広げた腕の中に、躊躇なく飛び込んだ。
 温かい彼の胸に顔をうずめる。いつもと同じぬくもりを感じて、やっと体の緊張が解けた。
 だが熱い抱擁は、すぐさま闖入者(ちんにゅうしゃ)によって妨げられた。
 玄関のドアが乱暴に開け放たれる。
「和哉! こんなことして、どういうつもり?」
 怒気をまき散らしながら女性が現れた。紫色が印象的なサリー風の衣装を身につけたサイティさんだ。
 だが金髪のウィッグも真っ黒いサングラスも着けていなくて、あらわになった顔は西永さんのオフィスで会った竹森さんその人に違いない。
「おい!」
 高木さんが慌てて彼女を後ろから羽交い絞めにした。
 サイティさんの手には折り畳み式のナイフが握られていたのだ。
 手足をばたつかせるサイティさんに、友広くんが近づいていく。
「サイラ、落ち着いて」
「離せ! その女、許せない!」
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