この想いが届くまで

06 思いがけない再会4

「久しぶり! 元気? 心配したよ、なんで返事くれな……」
 一歩、二歩と距離を縮めたところで遠藤の足が止まる。明らかに未央の様子がおかしい。俯き目を合わせようとしない。その表情から読み取れる感情は嫌悪。遠藤は薄々感づいていた。未央と理沙との間に何かがあったこと。些細なケンカ、最初はそう思っていたが未央が会社を去ったことでもっと根深く深刻なものだと思うようになっていた。それを確かめたくて何度か会おうと連絡をしたが、最近では返事すら返ってくることがなくなった。
「ねぇ……いこ? ほら……未央、男の人といるし。何かあったのかも」
 理沙が遠藤の袖を引く。
「ごめん! 私、急いでるから……!」
 先にその場を立ち去ろうとしたのは未央だった。逃げるように二人に背を向け、雨の中を駆け出す。しかし雨に濡れたアスファルトにヒールが滑って転んでしまう。
 膝に激痛、容赦なく自分にめがけて降ってくる雨。未央はあまりにもみじめで消えてしまいたいと泣きそうになった。
「大丈夫!?」
 すぐに遠藤が駆け寄って、自分の傘で未央を雨からかばった。長年想い続けた相手。久しぶりに再会した遠藤をこんなにも近くに感じて、一度はあきらめた感情が蘇ってくるかのように胸の鼓動が高鳴りだした。遠藤の差し出してくれた手に、手が伸びそうになった、その時だった。未央の体がふわりと浮いた。
「迎えが来た。行こう」
 西崎は未央を横抱きにすると「失礼」と言い路肩に停まった車へと向かった。
 未央は何が起きているのかすぐには理解できなかった。雨が西崎の頬を濡らし粒となって滑り落ちていく。ただただじっとその目の前の風景を見つめた。
 そして西崎と未央が乗り込んだ車は走り去っていく。遠藤は走り去る車を見つめながら問いかける。
「なぁ……いいかげん教えてくれよ。どうしたんだよ、二人。何があった? 教えてくれよ、理沙」
 口をきつく閉じたまま、理沙も見えなくなるまでじっと走り去る車を見据えていた。

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