この想いが届くまで

04 あなたのことが知りたい2

 窓の外の流れていく煌びやかな夜景を見つめながらどこか未央はどこか夢見心地だった。
 こうして西崎に自宅まで送ってもらうのは二度目だった。一度目は脚を怪我した未央の手当てをしてくれた日だ。あの日の自宅までの道中は正直ほとんど覚えていない。何を話して、何を思っていたのか。とにかく頭の中がぐちゃぐちゃだったことしか記憶がない。今日もきっとそんな感じになるのだろうと思っていたが、あの日よりは冷静に過ごせている気はしている。
 週末の夜の繁華街は多くの人で賑わっていて、車の通りも多い。何度目かの赤信号で停車した時に西崎が行列ができている場所をさして未央に尋ねた。
「あの行列……なんだろう?」
「……あ。先月オープンしたラーメン屋ですよ。テレビでも取り上げられててたぶんしばらくはあの行列が続くかと」
「ふーん。おいしいのかな?」
「友人がオープン初日に並んで食べたらしいんですけど、並んでまで食べるほどでもないって言ってました」
「へぇ……」
 信号が青に変わり車が動き出す中ふと、未央は思った。
(社長はラーメンなんて食べるのかな。というか好きな食べ物って、なんだろう。普段何食べてる……?)
(今乗っている車、高級車ということは変わらないけどこの間と車種が違う気がする。車替えたのかな?)
 そろっと運転席に目を向け、ハンドルを握る手元が目に入った。いつもビシッとそつなくスーツを着こなしているけど、車に乗ってからはジャケットのボタンをはずし首元もだいぶくつろげている。
(私服、どんな感じなんだろう……。部屋着姿とか、スウェット? ジャージ? え……想像つかない。休日……あれ? 今日って休みじゃないのかな。休みの日って何して過ごしてるんだろう?)
 忙しなく響く心の声に背中を押されるように視線を上げると端正な横顔が目に入って、喉まで出かけた言葉をぐっと飲みこんで大げさに前を向く。完全に挙動不審だった。
「何? 言いたいことあるなら遠慮なく言ってくれ」
「え……や、あの。……今日は、い、いい天気ですね」
「夜に言う言葉じゃないな」
 西崎はうつむき頬を染めながら何も言えなくなっている未央を横目でちらっと見ると小さく噴き出した。笑われている、その事実に恥ずかしくて泣きたくなる気持ちとどこか胸がむずがゆい気持ちが入り混じる。
 未央は気づいていた。
 先ほどの合コンの席では、ハイスペックの男性を前にしても自分でも驚くほど冷静だったのに。今はどうしてか、一挙一動に激しく心を揺さぶられてしまうのだ。
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