この想いが届くまで

02 最悪から最幸の夜へ1

 未央の風邪は一日休めば熱は下がり、週明けには元気に復活し出勤した。
 週の半ば、定時後。未央は化粧室横のパウダールームに仕事の先輩、中嶋彩佳(あやか)と一緒にいた。
 彩佳は先日の合コンに同席していた人物だ。元は「槙村さん」「先輩」と呼び合う関係だったが、合コンの場では名前で呼び合うよう口裏を合わて名前で呼び合ったことから、その後からは「未央ちゃん」「彩佳さん」と呼ぶようになり距離もぐっと近づいた。
「彩佳さん華やかな色が似合うと思うんです。……ほら、どうです? 全然派手じゃないでしょう。このカラー今季のトレンドなんです。今日のお洋服にも合ってます」
「……わ、ほんとだ。未央ちゃん、すごい……! 美容部員だったんだっけ?」
「いえいえ、違います。化粧品メーカーの事務だったので。だから人にメイクなんてほとんどしたことないんですけど」
「いや、この前の合コンの時すごくキレイにしてたから。自分でやったって言ってたからびっくりしちゃった。いつもナチュラルだもんね」
「朝時間なくて。メイクに時間かけるならゆっくりご飯食べたいです」
「分かる。ま、私はただ単純に寝坊して今日眉毛しか描く時間なくて。よかったー……今日、来客対応なくて」
 カウンターの上に広げたパレットなどのメイク用品をそれぞれ自分のものをポーチにしまっていく。彩佳は今日、先日の合コンで出会った男性とはじめてのデートの日だった。
「今日は頑張ってください」
「うん、ありがとう! 未央ちゃんの方はどうなの? 名刺もらってるの見たわよぉ。連絡とってる?」
「えぇっと、それが……」
 ついさっきまで存在を忘れていたとは言いにくく、言いにくそうにしていると彩佳は察する。
「申し訳なさそうにしなくていいよ。タイプじゃなっかったんなら仕方ないよ。もともと急に来られなくなった子の穴埋めを頼んだんだしさ」
「……はい」
「未央ちゃん彼氏はいないって言ってたよね? どのくらいいないの?」
「大学の時に付き合っていた人と社会人になって別れてからだから……あれ、別れたのが確か……。やだ、もう四年?」
「わぁ、それはもう、そろそろ欲しくなるね。もったいないな、未央ちゃん可愛いから」
 彩佳は荷物をまとめると腕時計を見て「じゃあそろそろ行くね」と言った。
「お先にごめん。未央ちゃんも適当なとこで終わらせてさっさと帰ってね」
 長い髪をなびかせ綺麗な姿勢で立ち去って行く彩佳の後ろ姿を見つめながらかっこいいなと思う。美人でスタイルも良く、仕事で困っていれば声をかけてくれ悩んでいれば親身になって相談に乗ってくれる。密かに憧れている女性だ。今日はうまくいくといいな、と思いながら未央は仕事へと戻った。

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