君の中から僕が消えても僕は君を覚えている。【完結】

「えっと、今なんて?」


ハンカチを持つ手を下ろしながら、私はそう尋ねる。
蝉がミーンミーンと鳴いていた。
纏う暑さにじわじわと汗が額に浮かぶ。


じっと見つめていると、彼も同じように私を真っ直ぐに見つめて再度同じ言葉を発した。


「僕を殺してくれないか」

「……だから、いきなり意味がわからないんだけど」


最後の方は少しだけ苛立ちを含んでいた。
殺してくれってなんて物騒だ。

理由もわからない。
何故、私に頼むのかもわからない。
私に殺人犯になれって言っているのか?
それなら御免だ。殺人犯になんてなりたくない。


私は私の経歴に傷を付けるつもりはない。


彼は視線を伏せると、ゆっくりと首を振った。
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