ただあの子になりたくて


私ばかり、信じられないほど大切なものをもらったままで、彼から離れなければならない。

私はそっと身をかがめる。

大粒の涙が彼に落ちて、彼の涙をためた目がクリアに見える。

ごめんなさい。

ありがとう。

数え切れないほどのその二つの言葉を私は心で唱え、目を閉じる。

そして、彼の額に落とした口づけ。

唇に宿した彼の優しい体温。

するりと、腰に回された手が緩む。

もう、この彼のぬくもりがあれば私に怖いものなんてない。


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