ただあの子になりたくて


初めての光景だった。

こんなにも注目を浴びたことなどない。

「野々原さんって、芝居もこんなにうまいんだ! 最高だったよ」

監督まで引き受けたあの女子係員が私の肩をバンバン叩いて称賛する。

こんなにほめられたこともない。

自然と、胸の奥底が熱くくすぐったく、くすぶっていく。

明るく踊ってしまいそうな声を何とか抑えながら、クールぶって挨拶をする。

「そ、そうですか? ありがとうございます」

案外、人の仮面を借りれば何でもできるものだ。

ほとんど恥ずかしいなんて思わなかった。

というか、あれは芝居ですらなかったと思う。

台詞が全部、デジャブみたいだ。

私自身がついこの間口走った言葉と、まるで同じ。


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