ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に
ラブは何処にある
水天宮の門をくぐると、煌びやかな世界が広がった。

提灯が灯された参道の両脇に並ぶハデな露店の屋根。

りんご飴にわたがし、タコ焼きに焼き鳥、イカ焼き……

集まってる人達はごった返して列を成し、賑やかしく参道を彩る。


砂糖甘い香りやソースの香ばしい香りに包まれて、立ち上る白い煙が辺りを薄っすらと曇らせてる。

耳障りな音楽が聞こえる。

その中に紛れ込んだ。



「金魚すくいしたい〜!」


小さな子供の声に振り返った。
ビーチパラソルの下に水を張った長方形の箱が置いてある。


「ダメダメ!直ぐに死んじゃうから」


シビアな母親に手を引かれながら男の子は悲しそうな顔して行く。




(直ぐに死んじゃうか……)


まるで私の恋と同じような気がしてくる。
谷口との恋も今日できっと終わるんだ。


参拝へ向かう人の群れは意外にも多かった。
人混みに揉まれながら前へ進み、大きな賽銭箱の前に立った。



「ほら、賽銭」


千円札を見せられた。


「た、谷口さん…?」


これって何。
放れって意味!?


「小銭持ってねぇんだ」

「だったら私が……」


出すよ。御賽銭くらい。


「出すな!今日は俺が全部出す!」


この間の続き?
でも、御賽銭は自分のお金でないと効果がないんじゃないの?


あれこれ考えてるうちに谷口は千円札を放り投げた。
鈴の紐を引っ張ろうと構えるから私は躊躇う間もなくて。


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