ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に
お姫様には向かない
1週間という長い修行期間が過ぎて、私はグッタリとしたまま土曜日の朝を迎えた。
ノロノロとベッドから起き出し、顔を洗ってキッチンへ向かえば、そこには祖母の姿だけがあって。



「おはよう。蛍」


テーブルに着いたままの姿勢で振り向かれた。


「おはよう…」


挨拶だけして椅子を引く。
席に着いたと同時に差し出される麦茶の入ったグラス。


「ありがとう…」


こういうことしてもらうとお姫様みたいな気分なんだけど。


「朝ご飯食べるなら自分でおやり」


自分のことは自分でやるのが我が家のルール。
それなりに助かることもあるけど。


「ん…」


今朝は食べる気も起こらない。
ゴクン…と麦茶をひと口飲んで、はぁーと思いきり息を吐き出す。


「幸せが逃げるよ」


遠慮のない祖母の言葉に息を呑み込む。
迷信だと思ってはいても、逃げられたらやっぱり困る。


「悩みでもあるのかい?この1週間、浮かない顔ばかりしてたけど」


「ううん、何にもない」


気づいてたのか…と知った。
気心知れた人にウソをつくのは思いやり。


「そうかい。ならいいけど」


疑っても聞かないのも思いやりの一つだと思う。


「ごちそうさま」


気まずいから逃げ出した。
階段を上りながら、1週間を振り返る。


月曜日にいきなり商品開発部への異動を命じられた。
叔父さんのいる部署だから安心ということは一つもなく、慣れない仕事と雰囲気の中で戦うことになった。


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