ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に
「どうやって」


男にはフラれる。
金魚には逃げられる。
変な男には目をつけられ、食べきれもしない量の食べ物を前にしてるというのに。


考えてたら涙がこみ上げてきた。
溢れそうで溢れないギリギリの線でなんとか零さないよう努力する。

震える唇を噛みしめる。
その私の方に寄ってきた男はクイッと顎を持ち上げた。


「泣くな。いい顔が台無しになるぞ」


ほっとけ!と言いたい。
でも、今は声も出せない。


「そんなにフラれたのがショックなのか」


ううん。そんなことはない。


「その男が好きだったとか?」


ううん。それ程でもない。


「やり直したいとか思う?」


まさか、誰があんな二枚舌と…!


ぶるぶると首を大きく首を横に振った。
私はただ誰かと比べられてたのが嫌だったんだ。



「なら俺にしとけよ」

「はっ…?」


何が。


顎を支えてる手と反対の手がサングラスを外した。

くっきりとした二重瞼の目が露わになり、ふ…っと弧を描いた。



「俺を彼氏にしろよ。あんたのことが気に入った」


あろうことかそう言って顔を寄せてきた。
仰け反ろうとしても帯が邪魔をして背中を倒すこともできない。
どんどん寄ってくる顔に驚いて、思わずぎゅっと目を閉じた。


ふわっと柔らかい感触が唇の先に触れた。
ビクッとなる私の背中に手を回した男が、ぐっと前に引き寄せる。


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