ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に
『それ食べながら俺のこと思い出せよな』


『は…はは……(誰が思い出すか!)』



ヘラッと笑ってごまかした。
タクシーの中でも、なるべく思い返さないようにしていた。


それなのに今目の前にある物を見て、浮かんでくる顔といえばヤンキー男の谷口。


近づいてくる顔は鼻筋が通ってた。

離れていく唇があったかくて、きゅん…と胸が切なく鳴った。

まさか…の連続が過ぎて朝になれば、あれは夢じゃないと語る物が置いてあり。




「……ごめん。私、朝はいらない」


さすがに昨日の今日で粉物はムリ。
一食くらい食べなくても胃袋の方は平気だ。


「そぅお?美味しいわよ。この焼きそばもお好み焼きも」


美味しいのは知ってる。
きっとその材料も、何かしらこだわってるんだ。



(たかが夜店の出し物なのに)


あの神社のお祭りに出てた露店は、どれも市民ボランティアの人達がやってると聞いた。
一般的な的屋とは違って、材料も何もかも一から準備をしたらしい。



(それを教えてくれたのもアイツだけどね)


着替えながら思い出される。
谷口と名乗る男は、露店の責任者だと言っていた。


(それで勝手に店番を頼んだりできたのか)


昨夜はぼうっとしてたせいで、話も半分しか聞けてなかった。
男の話に耳を傾けながら、フンフン…と頷いてただけ。

朝になって冷静に考えれば納得がいく。

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