ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に
(せめて、聖みたく仕事ができるならいいけど……)


パソコンも経理もできない。
せいぜい検品作業がいいところ。


(オフィスの人事ってよく見てるよね)



適材適所。
ホント感心する。



(脱帽だよ)



副社長の金魚飼いのおかげで、私の失恋話は適当なところで幕を閉じた。


今度はきっといい相手に出会えるよと話す二人と別れて、ぶらぶらとウインドウショッピングをしながら帰った。


デパートのガラスケースに品のいい浴衣を着たマネキンが立ってた。
片方だけ残った下駄のことを思い出して、少しだけ胸が痛む。


あの時は両方投げてやれば良かったと思ったけど、今は投げない方が良かったと後悔してる。

あの下駄は買った時から気に入ってた。
手提げカゴとお揃いで、あれに合う浴衣を今度ゆっくり探そうと決めてたのに。



「買わなくて良くなったんだからラッキーと思おう」


負け惜しみのように呟いた。

投げつけた時の郁也の顔よりも下駄の鼻緒を思い出した。



(あーあ…)


散々な週末だった。
しばらくは郁也とも顔を合わせたくない。



(あの変なヤンキーともね)


迫ってきた時の迫力に負けた。
イケメンだったかどうかは、もう一度会わないとわからない。




(もう会うこともないと思うけど)


家に帰ったら連絡先は削除しよう。
それでもって、新しい恋を探すんだ。



煮えるような暑さの中を帰った。

家に着くなり夕立に降られ、ギリギりセーフ…と息を吐いたその瞬間、メールはボックスに届けられた。


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