妖あやし、恋は難し

「今更だけど…あなたにそっくりだよね、【ハク】」

『…どこがだ。私はあの阿保のように結を殴ったりせん』

「でも顔はそっくり、ここ、眉間の皺とか」

『チッ…やっぱ柳ん時に殺しておくべきだったか、蹴り倒すだけじゃなく喉でも噛み千切って』

「ほら、そう言う物騒な所もそっくり」


呆れた様に、結は苦笑いをする。

この【鬼】はいつも結の隣にいるの。

物心ついた時からずっと、何の因果か傍を離れようとしない、多少口の悪い【鬼】。

凶暴だけれど、何故だか結を好いていると言う、変な【鬼】。

結はもう一度湊の顔を見ると、小さく笑ってその場を立ち去る。


『…何も言わんでいいのか、依頼料は?』

「別にいいよ。今回は同業者が起こした事件だったんだから」


それに、


「もう、見たくないでしょ…私みたいな人間は、あの占い師と同じ部類の人間は…」

そう言った結の顔は、どこか悲しそうで。

隣を歩く【ハク】はその横顔をじっと見つめると、何でもなさそうにぽつりとつぶやいた。


『あんなのがいなくても、誰に理解されなくとも、俺がいる。結の隣には、俺がいる』

「フフッ! 馬鹿だなあ、励ましてるつもり?励まされる覚えはないんだけど」

『……別に』


【陰陽師】一条結は、青空の下、今しがた出た病院を振り返る。


もう二度と会う事のないであろう、湊と遥の笑顔を願って。


「そう言えば、化猫様は?」

『…あんたに礼をと言って帰ったぞ。恩は忘れないと』

「そっかぁ…また会えるといいなあ」


ああ、それよりも。


「パンケーキ! 食べに行こうか、【ハク】」



そう言って、彼女は人には見えぬ者を従えて歩いて行くのだった。




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