妖あやし、恋は難し

それから結は、いつものように除霊に没頭する。

静かに、ただただ静かに、目を閉じて。

彼女の集中力が続く限り行われるそれを、ベッドの中から剛蔵が見つめていた。


声をかけてはいけないと、何となく分かる。


尋常ではない彼女の集中力に感心しながらも、けして声を挙げずに剛蔵はベッドの中で横たわる。

そしていつの間にかそのまま夢の中へと落ちていった。









暖かな場所にいた。


(これは…夢か……)

真っ白な何も無い空間に一人、剛蔵は立つ。

辺りを見回すと、白い空間にもう一つ人影があった。

小さな女の子。

黒く艶やかな長い髪の中に、一房だけ、真っ白な白髪が混じっていて

その隙間から、大きな瞳が覗く

まるで宝石がそこにあるかの如く、その女の子の翡翠の瞳は輝いて見えた。




『おじさん、だぁれ?』

女の子が問いかける。小鳥な歌うような高く可愛い声で。

剛蔵はニコッと笑い、女の子に目線を合わせるためしゃがみこんだ。


『おじさんは、黒木剛蔵だ。お嬢ちゃんは?』

『わたし?わたしは…ワタシ。名前はね、おしえちゃいけないの』

『どうしてだい?』

『それはね、おばけに食べられちゃうから』

『え、…』

『おじちゃんも狙われてる。だからここにいるんだよ』


ほら、見て。

女の子はそう言って指さした。

その先を目で追いかけると、真っ白な空間に突如として門が出現した。

ゆっくりと扉が開く。

扉の奥は、白い空間と全くの真逆。真っ黒な闇が広がっていた。


そして次の瞬間、その闇の中から血みどろの手が飛び出し、剛蔵はびくっと肩を強張らせて目を見開く。

禍々しき悪霊が地面を這いつくばり、こちらに向かって手を伸ばしていたのだ。

まるでホラー映画さながらである。



『早く扉を閉めないと…!』

『大丈夫だよおじちゃん。おばけはこのお部屋には入ってこれないの。ドアが開いててもムリだよ』


彼女の言う通り、悪霊は扉の先へ超えることが出来ないようで、腕と顔までは出すがそれ以上は進んでこなかった。


『おばけはわたしを食べたいからここに来るの。でもわたしはこの部屋をつくれるから大丈夫なの』

『そうなのか…お嬢ちゃんがこの部屋を…』

『うん。ずっとね、ここにいる。いつも一人ぼっちだけど、ときどきおじちゃんみたいに人が来るからさびしくないよ』



女の子は小さく笑ってそう言った。



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