Beautiful World
僕たちは親友といっても、お互いのことをそれほど話すわけじゃない。


その証拠に、僕は昨日、波音が試合に出ていたことすら知らなかった。


周りの友人たちは、僕たちが付き合ってるんじゃないかとか誤解しているけれど、そんなことはまったくないんだ。


確かに、僕たちにとって一番近い人間はお互いであるけれど。


『そういう』意味で近いんじゃない。


ただ、海がどうしようもなく好きなことを、誰よりも理解できるだけ。


「そうか。……残念だったね」


僕の慰めともつかない言葉に、波音はうなずく。


負けて、くやしいだろう気持ちも。


引退して、さみしいのだろう気持ちも。


波音は話さない。


僕に話しても仕方ないとわかっているから。


けっして、冷たいんじゃない。


彼女は、限りなく僕を理解しているんだ。


僕が、波音の気持ちを全部はわかってあげられないことを。


……人として、すこし欠けている部分が、僕にはあるから。


――僕は、間違って人間に生まれてきてしまった。
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