桜の花びら、舞い降りた

「圭吾さんがここを知っているかもしれなくて」

「圭吾くんが?」


俊さんが圭吾さんに視線を移す。
私も振り返ると、圭吾さんは遠い目をして建物を見上げていた。
ここではない、もっと遠くを見るように。
物理的ではなく、時間的にうんと遠くを。


「俺が物心ついたときにはあったけど、どうだろうなぁ。ちょっと聞いてくるよ」

「聞くって誰に?」

「今日の個展のスポンサー、ここの会長なんだ」


“スポンサーのじいさん”の正体が、この春風閣の会長さんだとは。

俊さんは「会場に入って待ってろ」と言い置き、中へと戻って行った。

会場は、入口から入って左手奥の一角に設けられていた。
二方向がガラス張りになったスペースには、綺麗に額に収められた俊さんの絵が壁に掛けられている。
アトリエにあったときのような乱雑な並べ方じゃないせいもあるのか、ものすごく高そうな絵に見えた。

どのくらいの人が入れば個展が成功したと言えるのかわからないけれど、ざっと見たところ、二十人くらいの人がいた。

俊さんが来るまでの間、圭吾さんと順路に従って見ていく。

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