課長の瞳で凍死します ~旅支度編~
 ひとりで駆け出す子どもに向かい、真湖は走り出した。

 幸い、車は来ず、子どもを無事キャッチしたのだが、バス停から、かなり離れてしまっていた。

 しまった、バスッ、と振り返る。

 雅喜がバスの中から、なにが言っていた。

「まっ、待ってくださいっ」
と叫びながら、雅喜と車掌に向かい、手を振る。

 すると、なにを思ったか。

 バスは発車してしまった。

 いや、なにを思ったかって、もしかして、自分が手を振ったから、見送りに来ただけだと思われたのかもしれない。

 スーツケースは雅喜がバスに乗せてくれていたのか、バス停にはないし。

「嘘ーっ。
 待ってくださーいっ」
と真湖は、つい、また、手を振ってしまう。

 なにやら、盛大に見送っている感じに見えなくもない。

「いやーっ。
 ちょっとーっ!

 カムバーック!」

 後で思い出したら、日本の路上で、なにがカムバックだ、と思うところだろうが、このときには、そんな冷静さはなかった。
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