堕天使と呼ばれる女

「とりあえずは、名乗らずに済んで良かった…のかな?」


少女が走り去った後、ポツリと聖羅は呟いた。


「それにしても、入院日数が長いのに、あれだけ走れる体力があって…

 それに加えて、同じように長期入院してた私に対して、何かを言おうとした…

 これらを考えると、薬の被験者だと考えるのが、無難なのかな…」


「さて…

 次は、薬の被験者をどうやって調べるか…って事だね。」

そう呟いた時、頭の中に言葉が食い込んで来た。

【おい!!聖羅!
 どこで何やってるんだよ!?】

「あぁ…台無し…」

【黙って!!
 すぐに行くから!】

聖羅は軽くぼやきながら、頭に直接聞こえたその声に対して、返事をした。

そして、聖羅は静かに病院の外へ向かう…

聖羅やユリちゃんの秘密の場所から、病院の正面入り口を出ようとした瞬間…

【ずいぶんと珍しい人が来たものですね…】

聖羅の脳裏にガツンと声が響く。それと同時に聖羅は背筋が凍るのを感じた。

この声はっ!!


【おや?無言ですか!?

 何をしに来られたでしょうかね、聖羅さん?】

病院を出ようとした聖羅の足は、病院の正面玄関を目前にして、完全に凍り付いていた。

【気配を出来るだけ消していたのに、よくお気づきになられましたね…
 水谷理事長。】

そう返した聖羅に、水谷理事長は静かに答える。

【あぁ…今日は珍しく院内勤務でね。
 ちょっと、院内に不穏な気配は無いか、能力を使って探っていたんだよ。
 でも、まさか君が居ようとはね…】

クスクスという不気味な笑い声も一緒に聞こえてくる。

【企んでいるなんて、滅相も無い!
 たまたま、近くに来ただけですよ。
 見つかるとは思いませんでした。】

【…まあ、そういう事にしておこうかな。
 また、いつでも遊びにおいで。

 歓迎するよ。】


【丁重にお断りしますよ。】

水谷理事長の嫌みな申し出に対し、明るく返した聖羅は、そこで水谷理事長との会話を遮断した。
< 20 / 72 >

この作品をシェア

pagetop