堕天使と呼ばれる女
能力と隠蔽
聖羅と和也は、ふたり揃ってしばしの間、硬直していた。理解が追いついていかない…。

「無能力」の能力に聖羅が関係している…。にわかには信じられない話だ。
聖羅は、ほとんどの能力において、組織トップクラス。でも、無能力の力は使えない。
そんな力、使ったことさえ無い。

聖羅にとってもこの話は寝耳に水だったようで、目を大きくパチクリさせながら、そわそわした素振りを見せていた。



静かに様子を見守っていた渡辺教授は、既にすっかり冷めてしまったコーヒーを口にしてから、ゆっくりと口を開いた。

「聖羅に自覚が無いのも仕方ないこと…。
 聖羅の遺伝子を研究した結果、私がたまたま、それらしい性質を発見しただけのことじゃ。

 まあ、きっかけはあったがなぁ…。」

「「えっ!?」」

思わぬ渡辺教授の発言に、聖羅と和也は揃えて声を上げていた。
それを、軽い笑みで交わした教授は、続きを話し始めた…。

「聖羅がまだ4歳くらいの頃じゃった。
 同年代の子どもが、実験を嫌がって大泣きを始めてたんじゃ…。
 それに対して、当然ながら大人たちは冷酷な対応を取った。
 そうして、自分の感情がコントロール出来なくなったその子どもは、その力を暴走させてしまった…。

 しばらく、その場に居た全員が唖然として立ち尽くしたが、ふと気付いたとき、誰かがその泣いた子どもに抱きついていた。

 泣きながら、わめきながら、必死にその子どもを強く抱きしめようとした“子ども”が…。」

「それが聖羅だったんですか!?」

「うむ。」

すかさず突っ込んだ和也に、教授はそう静かに答えた。



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