空を祈る紙ヒコーキ


 事は緊急を要した。愛大の厚意でタクシーに乗り、彼女と共に私の家へ向かった。タクシーは高いので普段だったら絶対おごられるのを断るけど今だけはそういう気持ちが消えていた。一刻も早く空の顔が見たい。

 車内で私達は終始無言だった。気を遣ったのか運転手が何か話しかけてきたけど「はい」としか返さない私達に肩をすくめ運転手もそのうち何も話してこなくなった。家に到着するなり飛び降りるようにタクシーを降りた。インターホンを鳴らす時間すら惜しく私は合鍵を使って玄関を開けた。

 家の中に入ると奥の方から数人分の人の気配がしたので、私は愛大と一緒に廊下を奥へ進みリビングに入った。リビングと地続きになったダイニングには夏原さんとお母さんがいた。二人して暁にケーキの作り方を教えているところだった。

「今日は友達の家に泊まるんじゃなかったの? あら、いらっしゃい。ウチに泊まるの?」

 私と愛大の顔を見てお母さんはご機嫌な声を出した。入学式の日に愛大を見て悪く言ったことなどすっかり忘れているらしい。一瞬呆れたけどそれを指摘する時間がもったいなかった。

「お母さん、空どこ?」

「さっき出かけていったわよ。コンビニに行くって。すぐ戻るから〜って」

 電話を一方的に終わらせたこのタイミングでいなくなるなんて悪い想像しか働かない。私は怒るような顔でお母さんを見つめた。

「どうして止めてくれなかったの!?」

「どうしたっていうのよ、そんなカッカして……」

 愛大の前だからか、いつもならここで怒り返してくるお母さんも優しい口調を保っていた。

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