空を祈る紙ヒコーキ

「他の原稿も見ていい?」

「いいよ。興味持ってくれて嬉しい。でもなんか恥ずかしいな、身近な人に読まれるのって。ありがたいけど」

 照れ笑いする空を見てこっちまで恥ずかしくなった。わざとため息をつくことでそれをかき消し、一枚一枚原稿に目を通していく。やっぱり上手い。続きを読みたくなる。

 これならプロになれるよ。

 そう言いかけ、やめた。空の絵はとても上手でストーリーも面白い。先を読ませる力がある。マンガに親しみがない私がここまで夢中になるのも珍しいくらいだ。でも、何だろう。……違和感を覚えた。

 どう言っていいのか分からない。その道のプロならもっと的確に指摘できるんだろうけど、私にはそこまでの知識も表現力もない。登場人物一人一人に魂を感じないとでもいうのか……。魅力的に描かれているはずなのに中身がからっぽに見えるというか……。

「やっぱりダメかー……」

 私の気持ちを察したように空はあっけらかんと言った。こっちの反応を予測してたみたいな話し方。

「ダメってことはないよ」

「いいよ。大丈夫。審査した現役マンガ家や編集部の人からも何度か指摘されたことあるから」

 空は眉を下げた。

「努力賞やもうひといき賞みたいなものをもらった時は投稿先の雑誌に総評が載るんだ。そこで毎回書かれてる。絵は褒められるけど登場人物の心理描写が弱いって。メインキャラクターの印象が薄すぎて作品全体に悪影響を出してるって」

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