苦しくて、愛おしくて
ゆっくり自転車が動き始めたタイミングに合わせて、私は凛の学ランを掴むように握る。
そうすると凛の身体はいつもピクッて強張るから、見ていて面白い。
「ねえ凛、今日
ご飯済ませたらそっち行くね」
「あ? 金曜ロードショー?」
「そ! 一緒に観よ」
「別にまあ、観てやってもいいよ」
他愛のない会話を交えながら、凛は余裕のある足漕ぎで自転車を加速させていく。
1年生の頃は二人乗りで漕いでもらうと僅か100メートル足らずで転倒。
一緒になって収穫を終えて真っ平らになった田んぼの中に落ちたこともあったのに。
いつの間にか二人乗りが漕げるようになって
いつの間にかブカブカだったはずの学ランを、立派に着こなせるようになっていた。