クールな御曹司と愛され政略結婚
「いい、すごく」



なにその子供みたいな褒め言葉。

メイクさんとプランナーさんが、一生懸命笑いを隠している。

せっかくなら当日驚かせてあげようと、選ぶのもサイズ直しも、ドレスに関することは私ひとりでやったので、どんなドレスを選んだかすら灯は知らなかった。

その甲斐はあったらしい。



「覚えてるか? ウェディングドレスを使う撮影をしたとき、メイクさんがさ」

「覚えてる、衣装さんに懇願して、撮影後に着せてもらったんだよね」

「そうそう。あのときはただ面白く見てたんだけど、今わかった」



艶めくトレーンをしげしげと眺め、感心したように言う。



「本当に特別なドレスなんだな。こりゃ着たいだろうし、着せたいって男の心理も納得だ」

「ドレスの話だったの?」



気を悪くしたふりをすると、灯は一瞬きょとんとし、それから笑った。



「すごくいいって言ったのは、中身も含めての話」

「ありがと」



当の灯こそ、カタログから抜け出てきたみたいに、様になっている。

明るいグレーのタキシードに、白いシャツ、シルバーのタイ。

バランスのとれた長身に、ほどよくついた筋肉。

正装の上からでもそれが見てとれて、おまけに顔は、微笑めばたいていの女を虜にできる──実際してきた──感じよく整った嫌味のない二枚目。

そしてきれいな長い指には…



「…なんでシャンパングラス持ってるの?」

「ホワイエのウェイティングカクテルもらってきた」



新郎が、式の直前に飲む気か。

そして、器用にも片手にふたつ持っているのは、なぜなのか。



「こっち唯のぶんな、はい、ゼロ次会しようぜ」

「えええ…」
< 10 / 191 >

この作品をシェア

pagetop