クールな御曹司と愛され政略結婚
「灯だけに会いに、こっそり」

「そこに鉢合わせて、姉妹で野々原の取り合いしちゃったんだ?」



ちょっと違うけれど、限りなく正しい。



「姉が灯を取ろうとしてるの」

「まさか、単なる挑発でしょ?」

「そうだといいんだけど」



我ながら自信のなさそうな声になる。



「私は、取られちゃったらそりゃ嫌だけど、もとから灯は、半分姉のものだとも思ってたし、でもだからって、はいどうぞなんて言えなくて」

「だけど、取らないでとも言えなかったんだ」



涙が出てきた。

言うべきだったのだ、私は。

灯の気持ちのありかがどこであろうと、姉の迫力に圧されようと、自分の口できちんと、灯が欲しいと言うべきだったのだ。


いつも"ちょうだい"が言えなくて、"あげる"と言ってもらえるのを指をくわえて待つばかり。

『あげるよ』と必ず言ってくれていた昔の姉は、もういないのに。


──灯を大事にしてあげていないんなら、私がもらう。


大事にしていないって、どういうこと。

好きなだけじゃダメなの?

欲しいって言えなかった私は、失格なの?



「泣かない、泣かない」

「と、灯が、どう思ってるのか全然わからないの」

「それで不安なんだ」

「たぶん私のことは、がっかりされた…」



カラン、とドアベルの涼しげな音がする。

おしぼりで、熱くなってきた目元を拭った。



「そうでもないと思うけどね」
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