クールな御曹司と愛され政略結婚
「俺は引き続き、心当たりのあるディレクターに連絡をとる。返事待ちも何人かいるが、望みは薄いと思ってる」

「やっぱり乗り気にはなってくれない?」

「正直、そんな印象だ。提案のスケジュールもきついし、通ったら通ったで長期間の拘束だろ」

「そっか」



安定して収入があるシリーズ作品も、諸刃の剣だ。



「これまで一緒に仕事したことがなくてもいい、候補になりそうなディレクターをリストアップしてくれ」

「了解」



今日は金曜日だ。

なんとしてでも今日中に、めぼしい人には連絡をつけたい。

部屋の壁に沿うようにL字に並べたふたつの机にそれぞれ向かい、厳しい時間になるであろう二週間の、前哨戦とも言える作業に挑んだ。



うーん。

日本中の映像監督の作品とプロフィールが載っている年鑑を片っ端からチェックしながら、凝ってきた首を揉んだ。

作風が近いというだけでも絞られるのに、こんな状況でうちと仕事をしてくれそうな人となると、絶望しそうになる。

ページをめくり、作品例を見ただけでこれは違うと思い飛ばそうとしたとき、ふとなにかが目についた。


柘植康隆(つげやすたか)、創現広告社、クリエイティブディレクター…。


40代のベテランで、名前は知っているし、作品もいくつか見たことがある。

どの情報が気になったんだろう、と指で追っていて、はっとした。


急いで隠岐くんのページに戻る。

やっぱりだ。

年齢は離れているものの、卒業している専門学校が同じで、その後短期間だけ所属している小さな制作会社まで同じだ。

勘が働いた。



「灯、この人知ってる?」



灯が柘植氏の項目を見て、すぐにうなずく。



「名前を、隠岐の口から聞いたことがある」

「隠岐くんの!?」

「なんのときだったかな。かなりマニアックな作風の人だから、なんで隠岐が気にしてるのかなって思ったのを覚えてる」
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