クールな御曹司と愛され政略結婚
「俺、最近ずっとフリーだし。お前も別に、恋愛中じゃないだろ」

「灯が知らないだけかもしれないよ?」

「見くびるなよ、仕事で年がら年中一緒にいるんだぜ、そのくらいわかる」



断定するように指差され、私は肯定も否定もせず、「あ、そう」とだけ答えた。

カウンターに肘をつき、グラスを傾けながら灯が語る。



「別に結婚を急ごうとも思ってなかったけど、一生独身とも思ってないし。けど、そのためにこれから相手探すとか、そんなガッツもない、ていうか時間がない」

「それ、よくわかる」



思わずしみじみと同意した。

私の場合、27歳まではまあ、"25歳"の誤差の範囲と自分を納得させられたのだけど、28歳が見えてきた途端、30歳へのカウントダウンが始まった。

とはいえ早く結婚したいわけでもない。

"結婚なんて、生きていたら誰だってするでしょ、私だって例外じゃない"

あえて言葉にするなら、そのくらいの意識だ。

相手もいなければ探す努力もしていないくせに、一生独身であることはこれっぽっちも想定していない。

よくよく考えると、これこそが数年後に焦るパターンなんじゃない?



「また仕事が楽しい時期なんだよね」

「そうなんだよなー、しかもこの楽しさは、数年じゃ終わらないだろ」



灯の場合、むしろこれからだろう。

着実に実力をつけ、あちこちで話題になり、顔も売れてきている。

そのうちどんどん面白い仕事が入ってきて、人とのコネクションも広く太くなり、できることは増え、近い将来、不動の名声を得るに違いない。

名実ともに、ビーコンの将来を背負って立つ人間なのだ。



「というのを考えるとさ、ここらで結婚しとくのもありだなって。これから余計なこと考えなくて済むってのは、けっこうプラスだろ」

「なるほどね」



灯の考えはわかった。



「相手が私っていうのも、気にならないの?」

「まあ、そこも考えたんだけど」
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