クールな御曹司と愛され政略結婚
『約束、守れよ』

『はい』

『俺はもう、二度と手を貸さないからな、絶対だぞ!』

『わかったって、ありがとね』



さっとヘルメットをかぶると、私の頭を押しやるように乱暴にひとなでして、灯は行ってしまった。

はい、約束ね。

この次は、好きな人と、ね。

その約束は、呪縛のようにこの先、私につきまとうだろうと予感した。


私の誤算。

灯にとっても、きっとひどい誤算。


それ以降も、灯はたびたび帰省しては勉強を見てくれたりと、変わらない兄貴ぶりを見せ、私たちはこの出来事について話すことはなかった。

私も大学に入り、遊びに勉強にと忙しくなり、灯は社会人になり。

やがて私が最初の職場である、メーカーのハウスエージェンシーに就職する頃には、年に一度、年末年始の休暇に顔を合わせるくらいになっていた。


その間もずっと、灯との約束は胸にあった。

次は好きな人と。

でも灯は、二度と手を貸してはくれないんだよね。

私に刻んだジレンマに気づいている?

いったい私は、どうすればいいの?



ねえ灯、私、この結婚は、神様がくれた奇跡だと思っている。

なにも知らない灯に、なにも知らせないまま、一緒になれるの。


いつか灯が、誰かのものになってしまうんじゃないかと、ずっと怯えていた。

もうそんな日々も終わるの。

灯をあきらめなくてよくなったの。


けどね、私、知っているの。

なかなか会えない中でも、灯の視線ばかり追いかけていたから、知っているの。

灯の目が、本当は誰を見ているのか。


優しくてひどい灯。

きっと想像もしていないんだろうね。

あの日から一度だって、私の心に灯がいなかった日はないんだよ。


偉そうなこと言って、全然わかっていないじゃない。

私はれっきとした恋愛中。


灯のことが好きなの。

ずっと。



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