クールな御曹司と愛され政略結婚
きっかけがなかったというのもあるし、なによりもこの半年間で、灯は5回、私は3回、撮影やロケハンのために海外に飛んでいる。

その合間に国内のあちこちへ行ったりもした。

要するに、時間がまったくなかったのだ。



「…早く服、着てよ」

「お前、ほんと口うるさいな」



目の毒なの! という本音を飲み込んだとき、私はぎょっとした。

灯が、掴んでいた私の手を口元に持っていって、指にキスをしたからだ。



「どうせ脱ぐんだから、着ないよ」

「どうせって…」

「緊張してるんだろ、唯」



にやりと笑う。

乾かしていない髪が、目に少しかかっていて、腹が立つくらいどきっとする。



「してる」



灯に嘘をついても仕方ないと思い、正直に言った。

緊張している。

寝室のダブルベッドを直視できないくらいには、している。


だってこれが、私たちの最初の夜なのだ。

夫婦としての。

要するに、男と女としての。


灯がくすくすと楽しそうに笑って、私の顎に指をかけた。

軽く上を向かせて、品定めするみたいにのぞき込んでくる。



「どれだけ成長したか、確かめてやるよ」

「もう明け方だよ?」

「どうせ一日休みだろ、今日は服なんか着るひまないぜ、たぶん」

「いつからそんな下品になったの…」



私のほうに少し身を屈める、裸の上半身から目をそらすのに苦労した。

10年前の薄ぼんやりした記憶と比べると、当時のほうが華奢だった気がする。

今も締まっていて細いほうだと思うけれど、年齢の分、なんというのか、どことなく安定感がある。

それは色気とも言えるものなのかもしれなくて、私は目を泳がせた。
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