クールな御曹司と愛され政略結婚
要子というその姉は、同じ高校の、灯の一学年上にいた。

私は入れ違いなので、一緒に通ったことはない。

家族同士の仲のよさを反映して、灯と姉も仲がよかった。


姉は一樹先輩が言ったように、一度見たら忘れないような華やかな顔立ちをしていて、また言動や振る舞いも明るく派手だったので、いつでも人の輪の中心にいた。

本人も、そういう立場を好んでいるように見えた。


灯と姉は、私が知っているだけで2回、すごく近い関係にあった。

一度目は灯が高校2年のとき。

二度目は灯が大学1年のときだ。


なにをもって近い関係というのか、具体的に証拠を示せと言われると困るんだけれど、それはもう、近親者の勘というしかない。

ふたりで歩いているところをたびたび見かけたり、それがホテル街のそばだったり、今にも手をつなぎそうな雰囲気だったり、そういうものの積み重ねだ。


関係が終わった時期をはっきりとは知らないけれど、私には、姉のほうが離れていったように見えた。

気まぐれで奔放な姉のことだから、別の空気が吸いたくなったとかそういう理由だったとしても不思議じゃない。

そして灯は、それからしばらくの間、わかりやすく物思いに沈んでいた。


姉は女性ファッション誌に強い出版社に就職し、そのころから実家に帰ってくる回数も減ったので、私も彼女の仕事にかんしてはよく知らない。

4年前、そんな姉に見合い話が持ち上がった。

医者一族である母方のほうから持ち込まれた縁談で、相手は関東に系列病院を複数持つ医療法人の会長の息子だ。

ただし、その時点で40代。



『私をなんだと思ってるのかな?』



断る断らない以前に、その縁談自体が、姉のプライドを逆なでした。

ある日【好きな人と結婚します】というメールを家族に送りつけて、彼女は行方をくらました。

住んでいたマンションは解約され、携帯もつながらない。

たったそれだけで、人ひとり、驚くほど簡単に消えてしまうものなのだ。
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