【短編集】その玉手箱は食べれません
扉が開き、50代後半と思われる男が入ってきた。よほどいい生地で仕立てているのか乗り込む動作だけでスーツの裾がフワッと舞った。
その男は扉脇の操作パネルに触れようとしたが、一瞬ボタンを押すのをためらう。
「そうか、このエレベーターには地下と最上階のボタンしかないのか」
誰に話しかけるでもなく、男は人差し指で“最上階”のボタンを押す。
1……2……3……4……5……6……7……
貧弱な蛍光灯だけが照らすゲージ内は薄暗いが、男の目に怪しい光が差し込んでいるような気がした。