【短編集】その玉手箱は食べれません


 周りを見ればサメの背びれがウヨウヨ動いていた。


 海に浸かっている足にザラッとしたサメの皮膚が触れる。


 足首から血が出て、海面に赤い液体が広がった。


 血のニオイを嗅ぎつけた背びれの集団が、徐々におれとの距離を詰めてくる。


 絶望感の中で、心がどんどん劣化していくのがわかった。


 チャポンという海面を弾く音のあと、足を咬まれたおれの体は海中深く沈んでいった。

       <了>
           第十二話へ

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