最低彼氏にはさよならがお似合い


「あーもうこれは、直接行くか」

印刷所に出向く旨を連絡して、ホワイトボードにも書き込んで、


「印刷所いってきます」

ちらほら聞こえる見送りの声に、顔を上げて歩き出した瞬間、人にぶつかった。


「うわ、すいません」

ふわりと香る香水か柔軟剤のそれが好みの香りでほんのり緩む口元を引き締めて頭をあげた。

そして、左目が前髪で隠れているのを良いことに、無意識にすがめた。


そんな私をわかっているかのようにその男は業とらしく、両腕で私を抱き締めるように支えてくる。


「このまま離さなくても俺はいいんだけど」

「遠慮するわ、離して水瀬」

奴の腹あたりに手をついて距離を取る。


「いま誰もいないのにな」

「だから?なんで同僚と抱き合わなきゃいけないの、感極まったわけでもあるまいし」

意味深に笑みを浮かべるもなにも言わず。

「ふうん、まあいいよ。で?どこ行こうとしてた」

「水瀬のこと待ってたの。さっきカステラの見本写真届いたんだけど」

「見せて」

「これ。色合いが」

「違うな。どこでこうなったんだか。群青って言っただろ」

「そうよ、伝えたわ。だから今印刷所行って」

「あー、俺も行く」

「じゃあ社用車借りなきゃ」

「はいはい」


地下駐車場に着くまで、水瀬は私の1歩手前を歩きながら電話していた。

失礼します、電話を切ると車のロックを解除して

仕事なんだし、と言いつつも水瀬は振る舞いがいちいち紳士で、ドアの扉を開けようとしてくれる。


「そこまでしなくていいわよ」

「癖だな、もう」

「アメリカはレディファーストだからね」

「何言ってるんだ、夏帆限定に決まってる」

「……あっそ、」

窓の外に視線を移せば、くつりくつり、笑う声がして

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