最低彼氏にはさよならがお似合い
よくあることには決断がお似合い


社内に入ったときから何となく空気が浮わついていた。

大して気にもとめず、自分のデスクについた。
その瞬間待っていましたとばかりに、やって来た噂大好きな同僚に囲まれる。

「ちょっと、櫻井聞いた?」

「なによ、朝から」

「水瀬くんよ」
「噂なんだけどね」
「あたしも聞いたとき叫んだわ」
「本当なのかなー」

好き勝手言い始めた彼女たちは結局まだ私にはなにもいってない。

あんたたちね、呆れてため息をはきだしたときだった。


「水瀬さん結婚するんですか!?」

フロアに高橋の声が響いて、みんな静まる。

水瀬がいなかったのは幸か不幸か、各々が自分の聞いた情報を交換し始める。

それに混ざる気は更々なかったけれど、気にならないこともなくて。

頭を使わなくていい、メールの仕分けを始めた。

始業のベルが鳴り、管理職が出勤し出したらお喋りをしているわけにもいかず、彼らは散らばったものの、視線が水瀬に向かうのがあからさまにわかる。


水瀬が婚約するらしい。
しかも相手は妊娠しているらしい。

それが要約した噂、らしい。


誰もが真実を水瀬に聞きたそうにしているけれど、相も変わらず忙しそうにしている水瀬の仕事の腰を折ることもできずにフロア全体がそわそわしたままに1日が過ぎていった。

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