恋色流星群



大方は予想していた通りで。

部分的に、違っていた。

私はその話を。

自分でも驚くくらい、至極冷静に聞いていた。









予想通り、だったのは。

翔さんが追いかけたヘアメイクの仕事は。
ニューヨークで、もう申し分のないほど受け入れられていたこと。

私の知っていたこの人には。
出来ないことなんて、何一つなかったから。





「新しいオリジナルブランドを立ち上げることにしたんだ。3年かかったけど、やっとこぎ着けた。」



「ブランドミューズを探してる。
ニューヨークを起点に、日本やアジア各国まで展開する。だから、日本人のほうがいいんだ。
___________俺は、理沙子に。お前に依頼したいと思ってる。」



「ミューズっていうのは・・・
まぁ、広告塔のような形で。ブランドを体現する、モデルだな。」



「もし、来てくれるなら。
これは、正式な仕事の依頼だから。俺とのことは、何もなくたっていい。」

『俺とのことって、今さらなんだよ。』




やっと、私が口を挟むと。




「わかってるよ、だから何もなくていいから。
ただ、お前の人生に、お前が一番望む形で責任を持つから。何も、心配しなくていい。」








この人の、私への口癖。
“心配しなくていい”を。

いつか、こんな気持ちで聞くなんて思ってもなかった。




「契約が切れれば、日本に戻ってもいいし、そのまま向こうで暮らしてもいい。
昔、英語勉強したいって言ってたろ。アメリカじゃなくたって、他の国にでも留学でも何でもすればいい。」

『・・・無責任に、夢ばかり見せるようなこと言わないでよ。』

「見せるよ。そう、できるようになったんだから。」





無意識に、重ねて見そうになる景色に。

私は、視界が歪みかけてるのを感じる。






「俺は、明日の便でニューヨークに戻る。
さっきの封筒_________お前の便は、来週の金曜にしてる。
少しでも、受けてくれる気があるなら。一度ニューヨークに来て、ブランドを見て欲しい。」




あの頃ずっと欲しかった。
この人の、こんな熱い眼差しが。

私に向く日が来るなんて、思ってもなかった。





『却下、チケットはいらない。今返す。』





反動的に、封筒に手を伸ばそうとすると。
思ってもみない、強い力で手首を掴まれる。


同時に、身体が覚えてる、大きな骨ばった手の感覚に。

心臓が、震える。




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