恋色流星群

7#瀬名side




意味があるのかないのか、知らないけど。
分厚いマスクは、二枚重ねにした。


ちゃんと出社許可が下りてから出て来たけど。
年末に向けて、みんながギアを加速する頃。
こんな大事な時期に、迂闊にも体調を崩しただけで大罪。
その上、芸能事務所としては公害とも言えるインフルエンザ。
情けなくて、涙が出る・・・




明日のライブのための、最終ミーティングを終えて。
溜まってた仕事を、少しでも自分の手で整理しなきゃと。
やたら目が合う直生さんの視線をすり抜けて、企画部のデスクまで辿り着いた。









“ちゃんと帰った?”

画面に浮き上がる、彼からのLINE。

まずいです、こういうほうが熱が出そうです。

ふにゃふにゃと力が抜けて、思わず額をデスクに打ち付けると。





「瀬名さん?!」



耳心地の良い澄んだ低音に、顔を上げる。


「要くん・・・」

「大丈夫?!いま、なんか白目だったけど!」


私の奇行を素直に心配してくれる、心優しきチームメイトがいた。













「とりあえず、そこの位置から近づかないでもらえるかな?」


デスク3個分ほど先の椅子に腰かける要くんに、マスクを押さえて念を押す。


「大丈夫だよ、俺ら予防接種してるもん。笑」


それ去年でしょう?と、言いかけて飲み込んだ。
去年でさえ、私は予防接種を受けてない。バタバタしてるうちに、会社の補助期間を過ぎてしまって。

自業自得・・・また、鼻奥がツンとする。



「明日の件なら、理沙さんにはちゃんと言ったよ?
メモ書いて渡してるし、入り方は大丈夫だと思うけど。」


「うん、ありがとう。
瀬名さんが丁寧に教えてくれたって、聞いた。」



私、顔に出やすいからな。
敢えてPCを覗き込みながら、集中してる風に目を細めて。



「要くんって、スタッフパス誰に作ってもらったの?」

「瀬名さん、今年いくつパス作った?」



重なった、台詞。
だけど私たちは、ちゃんとお互い聞き取れてしまった。


「私は・・・に、2個だけど・・・。」

「2個か。俺は浅山っちに作ってもらったよ。」


一瞬も顔色を濁らせず、眩しい笑顔を見せる。
ある意味、この人の笑顔は。

神業、だと思う。




「航の他に、誰に作ったの?」

「え!!」

「あれ?だって、2個作ったんでしょ?」




ニコニコと、首を傾げる。


「ち・・・あ、個人情報だからだめ!!」


うっかり、誘導尋問に乗せられかけて。
慌てて、マスクの上から口を押さえた。



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