恋色流星群
episode3


まだ、胸の爆音が止まらない。

彼は帰ったはずなのに。まだ気配が残ってる。





“俺のものになって”

甘い呪文は私の心臓を壊して。
柔らかさを捨てた瞳は、私の体を射すくめた。






それなのに。


「今すぐ、じゃなくていいから。ちゃんと、俺を選んで。」




まさに、アメとムチ。選ぶ・・・って、何?
一つだけある心当たりは、心当たりになれるほどのものでもなく。


要さんは、誤解をしてる。
本当に何もないのに。

航大と私は、永遠に何もないのに。


だけど、答えを決められない私は。狡く黙った。




「あとさ。要さん、って呼ぶのやめてくれないかな?俺の名前、知ってる?」

『あ、陽斗。』

「そう。俺のことも、名前で呼んでくれないかな?」

『え?』



着々と、この部屋を去る身支度を整えるなか。
外していた腕時計を、手首を振ってはめながら私を見下ろす。





「嫉妬でおかしくなりそうだ。」





思い出すだけで、枕に突っ伏す。




間違いない。

もう、あの野郎のことを言ってるとしか考えられないでしょう。



泣きそう。なんでこんなことに・・・
一晩で、変わった彼と。変わってしまった、私。
彼のはにかんだ笑顔に、ただ胸を鳴かせていた自分が懐かしい。





私が思っていたよりもずっと。

彼は甘くて危険だった。


甘いと思ったら、辛い。辛いと思ったら、さらにまた甘い。

ただ分かるのは。
私に触れるその手は、いつも抜かりなく丁寧なこと。



















電話の鳴る音で、目を開けた。部屋はすっかり明るくなっていて、タイマーにしていたラジオからは、ご機嫌なハワイアンミュージック。


ベッドサイドの、備え付けの電話を取る。


『・・・もしもし。』

「理沙子さん?!よかったー、生きてた!」



今から行きます!とだけ告げて、瀬名ちゃんの声は切れた。

時計を見ると、AM7:00。
要さんが帰ってからも悶々としてた私は。

帰り際に彼が飲ませた薬にあっさり負けて、気持ちよく熟睡してた模様。
まだダルいけど、頭痛はなくなった、かも・・・



ベルの音に起き上がり、広すぎる部屋を抜け扉を開ければ。


「携帯出ないから、心配したー!」と涙目の瀬名ちゃんに、抱きしめられた。









瀬名ちゃんは、持ってきてくれたサンドイッチやフルーツやらを冷蔵庫にしまいながら。


「今日は、私もオフなので一日一緒にいます!
欲しいものがあったら、何なりと言ってくださいね。」


やる気に満ちた目で、振り返った。


『え、なんで、カイルアビーチは?』



一日オフの今日は、カイルアビーチにみんなで行くって楽しみにしてたはず。
直生さんも一緒なんですって、笑ってたはず。



「私以外の皆さんで行ってもらうことにしました。私もさすがに疲れたし、部屋でゆっくりするのもいいかなぁ~って。」





そんなわけ、ない。私のために嘘ついてる。



『瀬名ちゃん、行ってきて。じゃないと、私が後悔する。』


私の強い口調に。揺れる、瞳。


『あー、瀬名ちゃんにあの時我慢させちゃったーって、一生引きずる。
まじだよ。だから絶対行ってきて。』

「理沙子さん・・・」

『あと、ごめん。誘ってくれてた夜のバーベキューなんだけど。
本当に申し訳ないんだけど、私遠慮したくて。明日帰国だから、ちゃんと治しておかなきゃ。』

「じゃあ、夜は一緒にここで食べませんか?!
私もバーベキューキャンセルするので、ここで軽く何か作って、ゆっくりして。
そうしてもらえるなら、ありがたくビーチ、行かせてもらいます。」




本当に、優しい子だな。

惚れちゃう。



『・・・ありがと。楽しみにしてるね。』

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