恋愛じかけの業務外取引
『取引しようぜ』
『取引、ですか?』
『そう。もちろん業務外の、ね』
*****
堤 凛太郎 殿
念書
私・山名マヤは貴殿を理不尽に殴打した償いとして、無償で貴殿の生活における家事全般を補助・代行することをお約束いたします。
なお、これに違反した場合、貴殿が刑事告訴を行っても不服を申し立てません。
*****
恋をすることに必死すぎて、己の犯した罪や取引のことなんてすっかり忘れていた。
私は彼を傷つけた憎むべき加害者で、これは私の社会的地位と家族を守るための大事な取引だった。
『俺に女ができるまで、あるいは気が済むまで。慰謝料の倍額分こき使ってやるよ』
女のあたりは考えないことにして、きっと気が済んだのだ。
慰謝料の倍額分、しっかり働いたと認めてくれたのだ。
だったら。
『ゆくゆくは俺に依存させたい』
『俺に依存して一生俺の面倒見てろよ』
この言葉はなんだったの。
今でも私の手の中にある合鍵はなんなの。
『人は思い通りにいかないものに執着する』
彼の言った通りだ。
私は個人的な取引が打ち切られたにもかかわらず、あまりに思い通りにいかなくて、今でもずっと彼のことばかり考えている。