声にできない“アイシテル”

新たなる地へ SIDE:チカ

「行っちゃったね」

 横に立つお兄ちゃんがポツリと言う。

 私は振っていた手をゆっくりと下ろした。


「チカちゃん、これで本当によかったの?」

 心配そうな瞳のお兄ちゃん。

 じっと私を見ている。


“どういうこと?”

「桜井さんに自分のこと、ぜんぜん話さなくてよかったの?」


 私は大きくうなずいた。

“教えたところでどうにもならないもん。
 どうにかなって欲しいとも思ってない。
 だから、これでよかったんだよ。
 アキ君とのことは、今日でみ~んなおしまい”

 
 アキ君を見送って、2年間引きずっていた想いがようやく整理できた。


 まだ完全にすっきりとまではいかないけど。

 もう少し時間が経てば、胸の痛みは小さくなるはず。



 アキ君はもう、過去の人。

 思い出の中でしか、存在しない人。
 
 『桜井 晃』という人物は、この先の私の人生に一切登場しない。


―――これでよかったんだよ・・・。


 お兄ちゃんを見上げて、ニコッと笑った。
< 409 / 558 >

この作品をシェア

pagetop