声にできない“アイシテル”
「はい。
 すごく研究熱心でしてね。
 完成できたのも、彼がいたからなんですよ」

 所長の言葉にお世辞は感じらない。


 ここは世界でもトップレベルの研究施設で。

 相当な努力家じゃないと勤めることなど出来ないと聞いている。


 同じ日本人として、ちょっと誇らしい。


 知り合いのいないこの場所で研究を続ける“トオル”という人物は、よほどの目的があるのだろう。

 俺は彼に興味を持った。

「一度は“トオル”さんにお会いしたいですね。
 ぜひ、お話を伺いたいです」
 

「後日、ご連絡しますよ。
 今日は私が簡単にお話しましょう」


 応接室に通され、所長が人工声帯について簡単に説明してくれた。

 すでに実用されていて、何人もが手術を受け、声を取り戻していると言う。


 その話を聞いて、チカと俺との未来に明るい光が差し込む。

―――よし。
   後はチカを見つけるだけだな。


 この先の人生には幸せが待っている。



 俺はそう信じて疑わなかった。
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