恋の処方箋SOS
「シャワー借りるね」
何事もなかったように振る舞いながら杏子はゆっくりとバスルームに向かった
ベッドに腰かけながらタバコを燻らせた
息を吸うだけで肺が痛む、ちらりと見たシーツには無惨に引き裂かれた染み
あいつのほうが痛いよな
タバコを灰皿に押し付けてもまだ水音はやまない
気になりバスルームのドア越しに声をかけた
「杏子?」
開けようとした俺に鋭い声が刺さる
「ダメ開けないでまだ汚い、ぜんぜん綺麗にならないの」
俺は強引にドアを開け中に入ると杏子の肌はところどころ赤みを帯びていた
シャワーの蒸気で咳き込んだ俺は激痛に顔をしかめた
「おまえは綺麗だよ」
「ダメ」
濡れるのもかまわない龍太郎の優しいキス
龍太郎はところかまわずキスをしていく私はただ龍太郎のされるままにしていた
けっきょく二人でシャワーを浴びることになってしまった
バスルームから出て私は龍太郎の腕の中で眠ってしまった
いつのまにか朝になっていて龍太郎にそっとキスをした
「龍太郎おはよ」
私はまだ眠る龍太郎をそのままに会社に行く準備を始めようと立ち上がりかけてベッドに引き戻された
そして抱きしめられたかと思うと首筋が軽く痺れた
名前を呼ぼうか悩んでいると一気に貫かれたような痺れ
「やめて」
必死に抵抗しても龍太郎の力のほうが遥かに強くて私はされるがままになっていた
龍太郎とこんな風にひとつになるなんなて望んでなかった
「おまえなにやってんだよ?」
後ろから声がして龍太郎が咳き込んだ
「龍太郎がそうしたんだよ?」
お互いにそれからは口もきかずに支度をして駅までの車内は憂鬱だった
龍太郎は運転をしながら何本目かわからないタバコに火をつけていた
朝の咳もタバコのせいだろうか?
少し心配になり龍太郎を見る
信号待ちだから龍太郎も視線に気づいてちらりとこちらを見た
「大丈夫?」
あまり触れないように遠回しに訊いてみた
「なにが?」
「なんでもない」
気まずいここまで気まずいなんて逃げ出したいよ
信号が青に変わり車が駅のロータリーに滑り込むなり私はドアを開けて走りだそうとした
「あとで電話待ってるから」
それは恋人どうしの甘い会話ではなくすっかり冷めきっていた
駅の階段をあがり改札を抜け電車を待っていると後ろから声がした
「やあおはよう奇遇だね、チェリーパイおいしかった?」
「白石先生?!あなたは私のストーカーですか」
「どうだろうね龍太郎先生あのあと大丈夫だったかな
肺まで壊れてないといいけど」
えっ?肺まで?どういう意味だろう
「龍太郎になにしたの?」
「君だって苦しんでたの見てたでしょ?」
龍太郎はお酒を呑んで苦しんでて・・・
そこにちょうど電車が滑り込んできた
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