黒胡椒もお砂糖も


 だけどもう知ってしまったんだったら、彼を綺麗にデコレーションしてみることも止めて、私の中に忌々しく感じる苦い感情があることも認めて、前を向かなければ。

 季節は春。長い冬が終わってもう雪も降らない。私にも人生での春が来るって、そう思いたい。

 解放されてて、ダメなところもひっくるめてちゃんと私は私で、温かく光を感じるような、春が。

 今年、その記念すべき一日は――――――――――高級なバーで、飲んでやる。

 一人でそれをするつもりだった。

 だけど、ちょうど私を心配して電話をかけてきた親友の里美にポロッとその話をすると、回りまわって陶子まで行き着いたらしい。

 丁度南支社で2月戦のご褒美、旅行施策が行われている時だった。上司もいないからとアッサリ仕事を切り上げて、私は午後の4時にはもう自分の部屋にいて、家事を済ませてホットカーペットに転がっていた。

 携帯がベッドの上で振動して、だらだら~っとそれを手に取る。

 ・・・お客さんだったら悲惨。もう化粧落としちゃったよ~・・・。そう思いながらディスプレイをあけると、表示名は陶子だった。

「はーい?」

 通話ボタンを押して気だるく答えると、元気な陶子の声。

『へーい!素敵な離婚記念日をお祝いするって聞いたわよ~!暇な私をお供に連れてって~』

 ・・・ラリってんの、この子?ってテンションだった。まだ夕方の4時だぜ、おい。

「・・・聞いたのね」

『聞いたわよー!!一人でしんみりはもう2年もやったんでしょ?パーッといこうよ、女同士で!』


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