黒胡椒もお砂糖も


 私はつい息を止めてそれを見詰める。

 ・・・・何だか久しぶりに見た気がする。相変わらず静かな表情。設計書を見ているようだ。

 私は彼から目を離さず、そのままふらりと第2営業部に足を踏み入れる。

 ふと、高田さんが顔を上げた。そして目を少し見開いた。

 黙って私を見る彼に少しずつ近づいていく。物音がしないから第2営業部には他の営業はいないようだった。

 締め切り前なのに、どうしてここには他の人がいないんだろう・・・。頭の隅っこでそんなことを考えた。エリートばかりの営業部で、どうして残業しているのが高田さんだけなんだろう・・・。

 だけどとにかく目的の人はそこに居るのだ。私はただ真っ直ぐに部屋の端まで歩く。

 上体を上げて椅子にもたれ、高田さんは私を見ている。

 そして口の端を上げた。

 ゆっくり、ゆっくりと笑顔になる。美しい両目は細められ、優しい形に変わる。薄い唇が引き上げられ、三日月型になった。黒い前髪が一房額に垂れている。

 その全部が、とても綺麗だった。

 おさまっていた鼓動がまた耳の中で鳴りだす。

 あと3歩。

 ドクン・・・

 あと2歩。

 ドクン・・・

 あと、1歩。

 ・・・ドクン


 私は彼の前に立ち、見下ろす。

 そして言った。


「私――――――高田さんが好きなようです」


 彼は微笑したままで手を伸ばす。

 私の手を掴んで、静かに言った。


「・・・はい。知ってますよ」




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