黒胡椒もお砂糖も


 昼間のシーンが何度も蘇っては、恥かしさと居た堪れなさから死ぬかと思った。

『本気ですよ』

 あの綺麗な瞳は私を見ていた。

 笑えなかった、あの一瞬。冗談にしてしまえなかったあの言葉。

 雪で視界が霞むのが勿体なかったあの格好いい男の人の姿。

 ああ、どうしよう。

 そして私はどうしたらいいのだろう。

 彼についてどう思っているのだろう。

 うわあああーん!

「あああ~無理無理無理~」

 体が熱くなってくる。何だかよく判らない気持ちが心を満たして、ごろごろと転がった。

 ・・・誰かに好きだと思われる・・・。それそのものがとても久しぶりなんだと判った。夫が離れていき、会社には捨てられた。これ以上拒否されたくなくて人と交わらないようにしてきた。

『尾崎さんが好きですよ』

 高田さんの低い声。頭の中をまわる。転がったままで寝そべって、私は何故か涙を流す。

 嬉しいのかな。嬉しいんだろうな。高田さんだから、というのではなく、誰かの好意、それが、嬉しいんだろうな。

 ああ、どうしよう・・・。

 幸せな気分だったんだと思う。だけれどもまだ混乱した状態の私は、とりあえずそのままで泣いてみた。

 疲れて眠ってしまうまで、床に転がって泣いていた。

 そんな夜を経験した。



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