黒胡椒もお砂糖も


「はーい、お待たせです!」

 物思いに沈んでいたら、支社の事務員である大嶺さんが元気よく研修室に入ってくる。

「この資料持ち帰って下さいね、本日はお疲れ様でした!」

 研修者が持って帰る資料を用意するのを忘れていたからと、待たされていたのだった。

 皆自分の分を手に取り、ランチに行こうと誘い合って研修室を出て行く。混雑を避けたい私は最後まで机に残り、皆が出て行ってから取りに行った。

「えーっと、尾崎さんですね、お疲れ様でした」

 ニッコリ微笑んだ大嶺さんから資料を受け取る。ここにも可愛い女子が!と言っても多分年は同じくらいだろう。ちらりと見ると、薬指には指輪が嵌めてあった。・・・人妻か。

「ありがとうございます」

 受け取ると、彼女は部屋の電気を消しカーテンを閉めて回る。あ、片付けがあるのか。私は鞄を入口に置いてそれを手伝った。

「うわあ、すみません!ありがとうございます」

 頭を下げる大嶺さんに、いえ、と手を振る。そのまま一緒に研修室を出る形になって、何となく喋りだした。

「2年目なんですね、尾崎さん。落ち着いてらっしゃるから、長いことしてそうですけど~」

 カラカラと明るく笑う。私もつられて笑顔になった。

「転職組みなんです。前は証券会社の営業でしたから、金融会社の雰囲気はもう身についてしまってますね」

「ああ、成る程!キャリアアップですか?」

 明るく尋ねる彼女に一瞬返事が遅れた。・・・キャリアアップ。そうだったらどんなにいいか。


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