Bitter Chocolate
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その日は朝から雲ひとつ無い青空だった。

ヒカリは服を着替え
夫の武志に頼まれたシャツをクリーニング店に取りに出掛けた。

帰り道は散歩がてら遠回りしていつもと違う道を通ると
新しい店が建っている。

中からチョコレートのいい香りがした。

「ショコラトリー ショコラ・ノアール?

チョコレート専門店?」

ヒカリは甘い匂いに誘われてオープン前だと知らず扉を開けた。

鍵はかかってなかったのでためらいもなく店内に入っていく。

ショーウインドウに宝石のように綺麗なチョコレートが並んでいる。

要は人の気配がして店に出ると
一人の女が立っていた。

「あの…何かご用ですか?」

「あ…チョコレート見せてもらえますか?」

「まだオープン前だけど…」

「すいません、ドアが開いてたから。」

「正式なオープンは明日からで…」

素敵な人…それがヒカリの要の第一印象だった。

「良かったら試食してみる?」

「いいんですか?」

「どれが良い?
お好きなのをどうぞ。」

ヒカリはいくつか試食させてもらい、
お茶まで出してもらった。

「素敵なお店ですね。
憧れだったんです。
子供の頃パティシエになって
自分のお店を持ちたかったんです。

それでお菓子の家を作るって思ってた。
笑っちゃいますよね。」

ヒカリの笑顔はキラキラしていて、
子供が夢を語る表情に戻っていた。

「良かったら作るのも見てみる?」

「いいんですか?」

要はなぜかヒカリに惹かれて店の中を案内した。

ヒカリは一つ一つ出来上がっていく美しいチョコレートに感動した。

「素敵。魔法の手みたい。」

ヒカリの喜ぶ姿は可愛かった。

夢中になって身を乗り出したヒカリが転びそうになって
要はヒカリを支えた。

「あ、ごめんなさい。もっと近くで見たくなって…」

要と目が合うと妙な気分になった。

一目惚れってこんな感じなのかな?

ヒカリは吸い込まれるように要の瞳を見つめている。

なぜか要はキスをしてきて
ヒカリは当たり前のように瞳を閉じた。

キスをしてるうち衝動を抑えられなくなった。

要が舌や指をヒカリの肌に滑らせ
ヒカリはいつのまにか声を出し、要はヒカリの脚を開いた。

こんな経験は初めてだった。

天窓から降り注ぐ光が
ヒカリの白く揺れる脚を照らしていた。

身体中が痺れて頭を突き抜けるような快感の後、
ヒカリは真っ白になって要にしがみつき
身体を震わせていた。

そして正気を取り戻し
急いで服を整えると
ヒカリは逃げるように要の店を出た。

太陽のヒカリが眩しくてクラクラした。

ヒカリの身体はチョコレートの匂いがした。

自分でも何が何だかわからなかった。

ただ、それをあまりに自然に受け入れた。


「ヒカリ、俺のシャツは?」

その夜、武志に言われて気がついた。

クリーニング店から持ってきたシャツを要の店に置いてきてしまった。

「それが…あの…クリーニング屋さんが違う人に間違って渡しちゃったみたいなの。

明日また取ってくる。」

ヒカリは咄嗟に嘘をついた。
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