Bitter Chocolate
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思えば今まで武志しか見てこなかった。

武志はヒカリにはカッコよくて
いつでもヒーローみたいだった。

中学生のヒカリにとって
高校生の4つも年上の武志は
大人に思えて自慢の彼氏だった。

武志と初めてキスしたのは付き合ってすぐのことだ。

その頃の武志はまだヒカリが高校生だと思っていた。

初めてのキスだと言ったら喜んでいた。

プロポーズされたときは
涙が出るほど幸せだった。

永遠に武志を愛そうと思った。

今まで武志だけを見てきた。

その間、ずっと幸せだったハズだ。

武志はいつでも優しかったし頼りになった。

恋人としても夫としても不満はなかった。

その気持ちを要に出逢って一瞬で忘れてしまったのだ。

それは人として間違ってる。

だけどそう思ってもヒカリの気持ちはどうにもならなかった。

仙台は退屈だった。

ヒカリは少しでも働こうと思った。

「働いてもいいよね?することもなくて…」

「賛成はできない。

働いてまた男でも作られたら困るしな。」

武志はすっかり変わってしまった。

信用されないのは仕方ないとしても
束縛も酷くなり、時には暴力的にもなった。

ヒカリは携帯も取り上げられ、お金もカードも取り上げられて
部屋に閉じ込められていた。

今のヒカリはまるで籠の鳥だった。

要に逢いたかった。

逢いたくて堪らなかった。

しかし携帯もとりあげられ
家の電話は履歴が残ってしまう。

そんなとき、東京から麗子が遊びに来てくれた。

「向うはどう?」

「もうヒカリの噂は過去になりつつあるかな。
騒いでるのは可南子だけよ。

みんな今は、美花の結婚相手の話で持ちきりよ。」

「美花、結婚するの?」

「うん。スゴい金持ちとね。
それでみんな大騒ぎしてる。」

「そうか。」

「人の噂も75日っていうけど…彼女たちは2週間で話題が変わるわ。」

久しぶりに麗子と話してヒカリは少し元気になった。

「ヒカリ…痩せたよね?大丈夫?

あの…それでね、行く前にあのチョコレートショップに行ってみたの。

それでヒカリに逢うから何か伝えることが無いか聞いてみたの。

それで…これを預かってきた。」

それは要が契約したスマートフォンだった。

「会えなくてもこれで連絡取り合おうって。
武志さんに見つからないようにね。」

SNSを開くと要からたくさんメッセージが入っていた。

"元気にしてるか?
俺は元気でやってるから心配するな。"

"ヒカリに逢いたい"

"今日夢にヒカリが出てきた。
夢の中のヒカリは泣いていたので心配でたまらない。

すぐにでもそっちへ行きたいと思った。

ヒカリ…逢いたくてたまらない。"

そんな文章がずっと連なっていた。

ヒカリはそれを読んで涙が止まらなくなった。

すぐにでも要の所に行きたかった。

「ヒカリ…大丈夫?」

「麗子、一緒に東京に連れていって。お願い。」

「もう武志さんのところには戻れなくなるよ。
それでもいいの?」

「…うん」

ヒカリは麗子とともに東京に向かった。

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