Bitter Chocolate
25
ヒカリはその後も惠佑からよく誘われた。

最初はランチ程度だったが
仕事帰りにも誘ってくるようになった。

「ヒカリさん、これから映画行きませんか?
明日お休みですよね?」

「えぇ、でも鷺沼さんはお仕事じゃない?」

「明日は遅番ですから。

俺、観たい映画があるんたけど…
一人じゃ行く気しなくて…。」

ヒカリは迷っていた。

武志以外の人と映画を観たことなど無い。

要とは一度もそんな人目につくような場所で会ったり出来なかった。

「ダメですか?」

ヒカリは自分の人生を振り替えると武志との思い出を除いたら何もない気がした。

他の人とデートしたこともなく、
恋愛らしい恋愛も武志だけだ。

それを全部飛び越えて要に出会ってしまった。

要とは恋愛という楽しい時期などなく、
ただ、お互い一目見ただけめ惹かれ合い
衝動的に身体を重ねて
狂ったように愛し合ったが
苦しいばかりで幸せだと思えたことは一度もなかった。

ヒカリもこれからはみんなのように
普通に色んな人と出逢い、
気に入った人とデートを重ねて恋愛に発展していくような恋をしようと思った。

「いいですよ。」

惠佑を恋愛の対象だと思ってるわけでは無いが、
惠佑といると気が楽だった。

要と愛し合った時みたいなあんな苦しい恋は2度としたくない。

目が合うだけで苦しくなって
逢わずに居られなくなるような…

要に抱かれるともうどうなってもいいと思えて
本能だけで行動した。

身を焦がして道を踏みはずすような…
あんな激情的な恋などもうしたくなかった。

要の所にはもう戻れない。

要と居たら何も考えられなくなるからだ。

後ろ指をさされても人の道を外れても
振り返ることが出来ないくらい夢中になる。

そして結果的に武志を深く傷つけてしまった。

またあんな風に何も見えなくなるくらい
愛してしまうのが怖かったから
ヒカリは惠佑のような
一緒に居て楽しい人に寄りかかりたくなった。

その日見た映画はサスペンスだったが
セクシーなシーンとともに描かれていた。

ハードなベッドシーンを惠佑と観るのは
少し恥ずかしくてヒカリは目を覆いたくなった。

「ちょっと気まずかったですよね?」

帰りに惠佑が恥ずかしそうに言った。

「あんなシーンが多いと知ってたら誘わなかったですよ。」

「大丈夫です。

もうそんなこと恥ずかしがるような年齢でもないし…

離婚までしてる女だし…」

「そういうの気にしなくていいと思うけど…
離婚なんてイマドキ珍しくないでしょう?」

「そうかな?」

「そうですよ。

ヒカリさんは普通の24歳の女より新鮮ですよ。」

「新鮮ね…
確かに恋愛経験は極度に少ないかも。」

「元旦那さんと中学の時から付き合ってましたよね?」

「何でそんなこと知ってるの?」

惠佑はなぜかヒカリの過去を知っていた。

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