ハッピーエンドなんていらない



「そっか」と呟いて目を細め薄く笑った紫苑に、わたしは首を傾げた。

「誰が書いたか、知ってるの?」

紫苑が何か知っている雰囲気だったので、思い切って尋ねてみることにした。


すると紫苑は少し困った顔をして、相変わらず口元に笑みを貼り付けたまま、

「知ってるよ」

アッサリと、そう言った。


それなら誰なのか是非教えてほしいと、その人に話を聞きたいと、誰なのか聞こうとした。

そうして口を開いてみたけれど、うまく言葉にすることはできなかった。


単純に、それは誰?と聞けばよかったのだけれど。

わたしが言葉を止めたのは、その、紫苑の表情を見てしまったからだ。


悲しそうに笑って、文字をずっと見つめる紫苑。

なんだか“わたし”を見ているような気分になった。


ずっと前に、湊への想いを黒板に綴ったときの、どうしようもないくらいに胸が苦しくなったときの、あの表情。

紫苑はちょうど、そんな感じの顔をしていた。


ふと浮かぶ、嫌な予感。

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