私、今から詐欺師になります
 そうだな。
 顔はいいけど、気障っぽいな……。

 そう思いながら、茅野は、夫、秀行がこちらに来るのを見た。

 仕立ての良いスーツを着こなす秀行は、確かに見た目だけなら、申し分はない。

 ……見た目だけならな、と思った茅野は、秀行が椅子に手をかけ、なにか言おうとした瞬間、頭を下げた。

「三年経ちました。
 離婚してくださいっ」

 構わず椅子に座った秀行は、メニューに手をかけ、
「わかった。
 とりあえず、なにか頼ませろ」
と言ってくる。

 声が大きすぎたらしく、先程の女子グループもこちらを見ていたが、気にせず、茅野は秀行を窺う。

 秀行は、今の話などまったく聞いていないかのように、極普通の顔で、メニューを眺めている。

 顔見知りらしい女の店員が通りかかると、笑顔で珈琲を頼んでいた。

「三年経ちました。
 離婚してください」
と繰り返した茅野の頭を、秀行はメニューではたく。

 珈琲を頼むためには、特に必要もなかっただろうメニューをわざわざ手に取ったのは、はたくためだったのか、と頭を押さえて、秀行の顔を見た。
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